
院長:近江お気軽にご相談ください!
カイロプラクティックを受けたことがある方なら、一度は気になったことがあるはずです。
「あのポキッてどういう音なの?」「骨が戻る音?」「身体に悪くない?」「危なくないの?」


自分で首を鳴らしている方からは「カイロと同じ感じ?」という声もよく聞きます。
この記事では、そういった疑問に現在の科学が示す情報をもとに、できる限り正確にお答えしたいと思います。少し長い記事になりますが、ぜひ最後までお付き合いください。
昔からいろんな説が言われてきました。
どれも一度は耳にしたことがあるかもしれません。ですがこれらはすべて、現在の科学では支持されていない説です。
現在最も根拠のある説は「関節内に気泡が発生した時の音」です。
2015年の研究では、リアルタイムMRIを使って指の関節の内部を観察したところ、ある一定の力を超えた瞬間に関節のスペースが素早く広がり気泡が出現し、まさにその瞬間に「ポキッ」という音が聞こえることが確認されました。
この現象にはトリボヌクリエーション(Tribonucleation)という名前がついています。
炭酸飲料を開けた時に起こる現象ととても似ていて、関節を包む袋の中の液体(滑液)に溶け込んでいた気体が、急激な圧力変化の瞬間に一気に気泡として出てくるイメージです。


*「ポキッ」の正確なメカニズムについては、現在も研究者の間で議論が続いています。
例えば「気泡の形成の瞬間が音の原因か、それとも気泡の部分的な崩壊が原因か」という点は、まだ決着がついていません。今後の研究によって変わる可能性もあります。
「関節を鳴らすと関節炎になる」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。結論から言うと、現時点の研究ではそのような関係は示されていません。
何十年も習慣的に関節を鳴らし続けた人とそうでない人を比較した複数の研究で、臨床的にもレントゲン画像上でも関節炎との関係は認められていません。
「関節を鳴らす=関節が悪くなる」という根拠は、現時点では見つかっていません。
*ここからは私個人の見解と臨床経験に基づく意見です。
「関節炎にはならないなら自分で鳴らしても大丈夫?」となりそうですが、カイロプラクターとしてはやはりあまりおすすめできません。その理由はどこの関節が鳴っているかという問題にあります。
人間の身体は常にバランスを保とうとしています。1か所動きの悪い関節があると、その近くの別の関節が余分に動くことで全体のバランスを保っています(これを「代償」と言います)。


自分で首を動かして「ポキッ」と鳴るのは、この代償で動きやすくなっている部分が鳴っているのであって、本来動かしたい問題のある関節は動いていません。
自分でポキポキしても問題のある場所にはアプローチできておらず、すでに動きすぎている部分をさらに動かしているだけです。
そのため自分で鳴らし続けても根本的な解決にはならず、何度も鳴らしたくなるループにはまってしまうことが多い、というのが私の見解です。
経験上、適切なアジャストメントを受けていると「首を鳴らす回数が減った」「いつの間にか鳴らさなくなっていた」という変化を感じる方が少なくありません。
「でも、カイロのアジャストメントも関節を鳴らしているんじゃないの?」という声が聞こえてくるかもしれません。ここが今日一番大切なポイントです。
カイロプラクターがアジャストメントで使う手技をHVLA(High Velocity, Low Amplitude)といいます。「高速度・低振幅」つまり素早く・わずかな動き幅で行う手技です。
関節を動かそうとすると、筋肉は反射的に「守ろう」として収縮します(伸張反射)。ゆっくり動かすと筋肉の防御反応が先に来てしまい、目的の関節は動きません。
アジャストメントの「速さ」は、筋肉が反応するより先にアジャストが完了するくらいのスピードが必要です。
関節には解剖学的な動きの限界があります。HVLAはその限界を超えない安全な範囲内で行います。
実は長年、「関節を可動域の限界まで持っていってアジャストする」という説明がカイロプラクティックの教育で使われてきました。しかし2022年の研究で、これが誤りであることが示されました。
関節を限界まで動かすと関節包や靭帯が張り切ってしまい、かえって関節面が離れにくくなります。気泡の発生(キャビテーション)は、関節が比較的ニュートラルな位置にある時の方が効率よく起きます。
つまり正しいアジャストメントは、「無理やり限界まで動かして鳴らす」ものではありません。「アジャストメントは関節を無理に動かす危険な手技」というイメージは、この古い誤ったモデルから来ているとも言えます。
そしてもう一つの最大の違いがここです。カイロプラクターは適切な評価によって、サブラクセーション(関節の機能的な動きの異常)が生じている部位を特定してからアプローチします。
代償で動きやすくなっている関節ではなく、問題の根本にある場所を狙う。これがアジャストメントの精度の核心です。


HVLAによるアジャストが行われると、関節内の圧力が瞬時に下がり、前述のトリボヌクリエーションが起こります。この時、関節包(関節を包んでいる袋)が一瞬大きく引き伸ばされます。
以前は、アジャストメントの神経学的な効果は関節包や靭帯にある固有受容器(センサー)の刺激によるものと考えられていました。
それも確かに起きていますが、最近では背骨周囲の筋肉、特に多裂筋(たれつきん)や最長筋に存在する筋紡錘(きんぼうすい)への刺激が主要な神経学的メカニズムであることが示されています。
筋紡錘は「筋肉が今どのくらい伸びているか」を感知する精密なセンサーです。アジャストメントの瞬間、これらの筋紡錘が一斉に反応し、脊髄を通じて脳に大量の情報を送ります。その結果、脳は筋肉の緊張バランスをリセットします。


パソコンが固まった時に再起動するのに少し似ています。アジャストメントは硬くなった関節周囲の神経系を一度リブートしているようなものと例えられる時があります。
2024年の系統的レビューでも、HVLAマニピュレーションが関節の可動域や神経系の応答に意味のある変化をもたらすことが確認されており、その効果は「音が出たかどうか」ではなく「適切な関節に適切なアプローチができたか」によって決まるという立場が支持されています。
「音が鳴ったほうがよく効いた気がする」という感想をよく聞きます。気持ちはわかります。
しかし2022年の系統的レビューでは、音が鳴った場合と鳴らなかった場合で、痛みの改善に統計的な差は認められなかったことが示されています。さらに興味深いことに、ある研究ではポップ音が少ない患者の方が成功率が高いという逆の傾向も観察されました。
アジャストメントの鎮痛効果は、特定の関節を「鳴らす」ことよりも、神経系全体への広範な影響から生まれると考えられています。
アクティベーターのような器具を使ったアジャストメントや、キャビテーションが起きないソフトなアプローチでも、前述の筋紡錘への刺激は起こります。
音はあくまで「関節内で起きた気体の変化の副産物」であって、目的ではありません。「どの関節に・どの方向から・どのタイミングで・どんな速さで」というアジャストメントの精度こそがゴールです。
ここはとても重要なポイントなので、正直にお伝えします。
アメリカの正規のカイロプラクティック教育プログラム(DCプログラム)では、4500時間以上の教育が必要とされています。
その内容は手技の習得だけでなく、解剖学・生理学・病理学・画像診断といった基礎医学・臨床医学の知識、そして何より「この人にこの手技をしていいか、してはいけないか」を判断するリスク管理と適応・禁忌の見極めを含む総合的な教育です。
アジャストメントは、力をかければ誰でも関節を「鳴らす」こと自体は可能です。しかし本来のアジャストメントは、正確な評価のもとで適応を確認した上で行うものであり、「ポキッと鳴らすこと」を目的とした施術は本質からかけ離れています。
アジャストメントには明確な禁忌(やってはいけない状態)があります。骨粗鬆症の進行・骨腫瘍・骨折・強い炎症・脊椎の不安定性などがその代表です。
だからこそカイロプラクターは施術前に必ずカウンセリング・触診・動作評価といった事前評価を最も重要視します。評価なしにアジャストメントを行うことは、カイロプラクティックの考え方としてあり得ません。
最近SNSでよく見かける、バキバキと音を立てることを前面に出した施術動画には注意が必要です。鳴らすこと自体を目的として行われているものも見受けられます。重要なのは以下の2点です。
動画で見栄えがするからといって、評価も説明もなく音を鳴らすことだけを繰り返すような施術は、本来のアジャストメントとは別物と考えてください。
適切な施術者のもとで受けるアジャストメントは安全性の高い手技ですが、それはしっかりとした教育と丁寧な評価があって初めて成り立ちます。
アジャストメントの精度はすべて「評価の質」に依存しています。
圧痛やジョイントプレーの低下が再現性の高い評価指標として認められており、これに動作評価やその他筋肉・神経系の評価を組み合わせることで、サブラクセーションのある部位を特定することができます。
複数の評価を組み合わせて初めて正確なアプローチが可能になる。これがカイロプラクターが評価を最優先にする理由です。


一時的な満足感よりも、根本に何が起きているかをしっかり見つけて対処することが大切だと思っています。何かご不明な点はお気軽にご相談ください。